甘さというロジック

NOBUO NAKAGAWA

2017.05.11

当店のジェラートは昨年12月からひたすら試作して、今年4月1日からプレオープンをさせていただき、おかげさまで大好評をいただいています。

途中1月には、腕試しということもあってノンミルクのフレーバーだけでイタリアのジェラートコンテストに出品しましたが、事前情報が乏しく「見た目の美しさと一貫性」というポイント項目があることを知らないまま、何のデコレーションもせず出品してしまい、残念ながら入賞することはできませんでした。開店もしていないのに、世界中のプロが集まるコンテストに出すというのは周りからはあまりに無謀と失笑されましたが、私にとってはとてもいいチャレンジでした。

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コンテストでは一番前の席に陣取り、自分のジェラートの得点がどうなっているのか見える限りで覗いていました。4人の審査員のうち、1人はジェラートのプロ(立派なコックコートを着ていました)、3人は一般の人(または業界関係者)のようでした。審査項目の「味」の部分では、プロとおぼしき審査員が満点5という数字を書いているのが見えましたが、見た目項目がすべて2か3というありさまで、デコレーションしなかったことを悔いるのと同時に、もしもう一度出すことがあるのなら、あんなデコレーションにしよう、などと思ったのを思い出します。

このコンテストの前後は、試作、試作、試作の毎日でした。試作すると、会社にいる30人ほどのスタッフに食べてもらい、コメントを求めましたが、基本的に散々なものでした。一番多かったコメントが「甘すぎる」「しつこい」「ハーゲンダッツと比べて・・・」「グリコのなんとかと比べて・・・」というようなものでした。

自分が作ったものがこれほど散々な言われ方をするのを心の中にぐっと押し込めつつ、とにかくありがたいフィードバックと思って修正をし、どんどん甘さを下げていきました。

コンテストはイタリア開催と言うこともあって、甘すぎるというスタッフのネガティブコメントは参考にはせず、自分の感覚で出したのですが、帰国後は開店が待っています。日本人相手となると、やはり日本人の意見を参考にしないと・・・と、スタッフが甘い甘いと言わないレベルまで甘味を下げに下げました。
もう、ジェラートとはいえない味にまで甘みを下げたとき、甘すぎる攻撃は終わり、どうも、社内的には合格になったようです。「甘すぎずおいしい」という声が増えたのです。しかし、その味でいくら試作をしても、私の感覚ではどれもおいしくなく、コクも感じず、こんなもの売れるか!という気分を抱えて深夜家に戻りました。

プレオープンまであと1週間というところまで迫った日、私は大決断をしました。

『今までコメント通りに下げ続けた甘みを、コメント前の状態に完全に戻す』

こう決めて、試作をすると、どれもバッチリです。少なくとも、私の次元では間違いなく、甘みのレベルは当初やっていたのがベストという感触でした。

※とはいえ、糖度の変化はたった0.3%程度、甘味度で0.8%ほどの、ほんとうに微妙な差がこれほどの味の差を生むのです!

そのままプレオープンし、私も「やっぱりちょっと甘すぎたかな」と思うときにも、実際に食べていただくお客様を見ていると、何の問題もないようです。むしろ、今もネットで見ることのできる感想を拝読しても、「どこよりもおいしい!」「甘さがきれいに口の中から切れていくので、いくらでも食べられる。」という声をたくさん読ませていただくことが出来るようになっています。

すでにプレオープンから40日ほど経ちますが、もちろん皆さん本音でお話しになっていない可能性があるとしても「甘すぎますね」と言われたことは一度もありません。市販のアイスクリームと比べれば明らかに甘味度は低く、脂質もぐっと控えめです。本場イタリアのジェラートと比べても、圧倒的にさっぱりした味に仕上げています。

開店後、「甘すぎる」の代わりに聞こえてきたのが「コクがあって、濃厚」という声です。つまり、私は社内の声に影響されすぎて、甘すぎると言われて甘味度を下げつづけ、もうこれでは開店できないと落胆し、元に戻したら「コクがある」に変わったのです。

あるスタッフからは「(コメントを反映して食べてもらった)以前より甘くない」と言われてさらに驚きました。明らかに糖度も甘味度も、上がっているのにも関わらず、です。

人の言葉とはこういうものだと、当事者としてよくわかりました。ときにそれはコクであり、甘みではないのです。世論調査の類いが信用できないなと、この件を通じて感じたとともに、ニトリの社長ではないのですが「社内で猛反対されたら突き進めのサイン」ということのようです。

しかし、課題がまだあります。カップ詰めの問題です。ジェラートをカップに押し込め、ドライアイスで輸送し、家庭用の冷凍庫で保存すると、甘みをさらに感じにくくなるため、業界標準ではカップ詰め用はさらに糖度を上げるそうです。つまり、甘みと同時にコクが失われやすい、ということになります。

私は、願わくば現時点の甘味度がベストと思っていますので、カップ用にさらに甘くするというのはしたくないと考えています。ということで、当面、店頭でベストな状態のジェラートを食べていただいた方のみ、お持ち帰りや発送をお受けするという方向でやらせていただいています。元々の味をご存じない状態で、あえて甘みを強くしていないカップ詰めをお送りしてしまうと、「なんか、これおいしくない」ということになりかねず、だからなのです。

この、ドライアイスやカップ詰めの諸問題については>>こちら にも詳しく書いています。

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1分でわかる
プレマルシェ・ジェラテリア

  • 自然食屋が、そのノウハウの全てを注ぎ込んだ京都のジェラート店
  • イタリアジェラート協会 国際コンテスト3年連続複数部門受賞
  • 正統イタリアン・ジェラートでありながら、和素材を生かしている
  • 機能素材やスーパーフードを多用し、罪悪感ゼロで楽しめる
  • 日本最大級のヴィーガン、ノンミルクジェラートの品揃え
  • 安価で味の粗いサトウキビ由来の白砂糖は一切不使用
  • 合成乳化剤・合成安定剤、合成食品添加物は一切不使用
  • 主に外国人から特別に高い評価を受け、行列になる日もある
  • チーフ・ジェラティエーレ(ジェラート職人)は中川信男
  • 前代未聞の「ジェラートのすべてが米素材100%」も各種開発
  • 「食べたら血流が増加する」という公的試験機関データあり
  • 京都でフードバリアを超えるというプロジェクトを立ち上げ
    Beyond “Food barrier”! 参照 )
  • 私たちが作るジェラートは「心の薬である」と真剣に希求